2007年1月 更新
展示課 石田 祐子
マリンピア日本海では、鯨類の成長や繁殖生理研究の一環として、血中のホルモン濃度を測定しています。
ホルモンについて
ホルモンは、内分泌腺(下垂体・甲状腺・副甲状腺・膵臓・副腎・精巣や卵巣)から分泌される物質で、 体の各部の機能を保ち、増進する作用があります。
繁殖活動に関係の深いホルモンには、視床下部ホルモン・下垂体ホルモン・卵巣ホルモン・ 甲状腺ホルモン・上皮小体(副甲状腺)ホルモン・副腎皮質ホルモンなどがあります。これらが複雑に係わり合い、 繁殖活動を調節しています。
マリンピア日本海では、ハンドウイルカ Tursiops truncatus gilli の雌に対して、 繁殖期や妊娠の指標として測定することが可能な卵巣ホルモンのひとつであるプロゲステロンの濃度を調べています。
プロゲステロンは、雌の卵巣から分泌されるホルモンで、受精卵着床のための準備を行い、妊娠を維持する作用を持ちます。 排卵後に上昇し、妊娠すれば高い値が維持されるので、排卵や妊娠を確定する目安の一つになります。
血中プロゲステロン濃度の測定方法
イルカの尾ビレの血管から約2mlの血液を採取し、抗凝固剤(ヘパリン)の入ったサンプル管へ入れます。 そのサンプルを4000回転/分で10分間、遠心分離させると約0.5mlの血漿を採取することができ、 血漿からプロゲステロン濃度を測定します。
基本的には2週間に1回の割合で血液採取を行っていますが、行動に変化がみられた時には採取頻度を上げます。
結果
図は「クロ」(推定年齢:18才程度以上、体重:290~260kg)と「キャンディー」 (推定年齢:19才程度以上、体重:284~263kg)の2003年9月10日から2006年9月7日までのプロゲステロン濃度の変化を示したものです。
「クロ」は、2003年9月に19ng/mlと高い値がみられましたが、少しずつ下がっていき、12月には1.4ng/mlと低くなりました。 2004年1月から5月までの間は測定していませんが、5月から7月にかけて0.4~1.6ng/mlと低い値が続いたのちに、9月半ばまで10ng/ml以上の高い値でした。 この時に最高値19.7ng/mlがみられました。2004年12月から2005年7月にかけて0.6~0.1ng/ml以下の低い値が続いたのち、 7月後半と8月後半に高い値がみられ、その後から2006年9月現在まで0.9~0.2ng/mlと低い値が続いています。「キャンディー」は、2003年9月から20ng/ml以上の高い値が続いていますが、11月後半には0.5ng/mlと低い値がみられました。 2004年は、上昇と下降が繰り返されました。1、2月に低下した後、3月から高い値が続き、最高値の32ng/mlがみられ、6月には0.2ng/mlと低い値ののち、 7月から値が上昇していきますが、10月と12月に低い値がみられました。2005年1月から3月には、3.5~17.3ng/mlと比較的高い値がみられましたが、 4月から6月にかけて0.3~0.1以下の低い値がみられています。その後何回か高い値が見られたが、11月から2006年8月の最終採取まで低い値が続いています。
血液中プロゲステロンの周年変化 |
考察
「クロ」は、2004年1月から4月間は未測定ですが、2005年のデータより、低い値が続いていた可能性があります。 2004年4月から2005年5月のデータから推測すると、冬から春にかけては排卵せず、夏から秋に排卵するという周期性がある様に思われます。 そして、2003年から2006年の4年間のプロゲステロン濃度を見比べてみると、 2003年から2005年の3年間では6月後半から7月前半にかけての間に排卵しているのがわかるので、 2006年も同様の時期に排卵が見られると思っていましたが、なかなか排卵がみられません。今年は排卵時期が遅れているのかもしれません。 9月以降に排卵がみられ、何回かプロゲステロン値の上昇・下降がみられたのち、12月頃には排卵が終わり、低い値が続くのかもしれません。
一方、「キャンディー」は、2004年と2005年のグラフをみると、春と秋に排卵しているのかなと思いますが、 2006年の冬から春にかけて採取ができなかったことや、採取間隔が空いているため、どうなのかよくわかりません。 もしかしたら、季節に関わらず高い値がみられて、年周期性はないのかもしれません。
2頭のグラフを見比べると、同じプール、同じ環境にいても、血中プロゲステロン濃度はシンクロしないこともわかりました。
今後は血中プロゲステロン濃度の変化が、単なる排卵周期を示すものなのか、あるいは、排卵→受胎→流産の可能性を示すものなのかを区別していければ良いと思われます。
採血 |
採尿 |
膣粘液採取 |