2011年 第55回水族館技術者研究会
展示課 ○石川 訓子
有櫛動物門有触手綱のカブトクラゲBolinopsis mikado は,その形や櫛板列の光の反射等展示効果は高い.しかし体が脆弱であり展示には傷の無い個体の確保が必要であるため,新潟市水族館では2008 年から繁殖を行っている.カブトクラゲの累代飼育の報告は無いため,今回安定した累代飼育を可能にする繁殖方法の確立を目的に2010 年5 月8 日より採卵と育成データの集積を試みた.
0.5μm フィルターによるろ過海水を入れたビーカーに,1L あたり1 個体の密度で成熟個体(平均全長65.0 ㎜)を夕方収容し,通気無しで一晩暗条件下に放置,翌朝静置した底面水から受精卵を回収した.卵は無色透明で,卵径は0.675±0.034mm(平均±SD:以下同様)(N=10),14L 円形水槽に150個程度ずつ収容しごく弱く通気した.回収日の夕方にふ化し,ふ化時の触手面最大幅(以下幅)は0.275±0.025 ㎜(N=10)であった.ふ化半日後には2 本の触手を持つ幼生となり,栄養強化したシオミズツボワムシを与え,5 日目より同アルテミアふ化幼生を併用した.ふ化後10 日目(幅約3.5㎜)より変態が開始され,14 日目(全長約12 ㎜)で触手は残るが袖状突起,耳状突起が形成された.16 日目(全長約15 ㎜)で触手は消失し変態が完了した個体から65L 四角型水槽に移し,ふ化後30 日で全長約45 ㎜に達した.なお換水は3~5 日おきに行い,飼育水温は全て20℃に設定した.
幼生期の瞬間成長速度率は47.5±13.5%であり,粕谷ら(2002)の報告とほぼ等しく今回の手法は本種に適した育成方法であると示唆された.また40 ㎜に成長した個体数/採卵親個体数は,2009年は3/8,3/5,10/14 であったのに対し,2010 年は37/11(5 月8 日採卵)次世代は55/5(12 月4日)と向上が見られた.なお同方法を用いたオビクラゲとツノクラゲの繁殖は,長期育成できなかったが,今後この手法を応用,改良することで他の有櫛動物の繁殖は可能であると考えられる.