2011年 東京大学大気海洋研究所共同利用研究集会 生物多様性と水族館 研究・展示・啓発活動
管理課 大和 淳
環境コミュニケーションという言葉は比較的新しい言葉である。平成13年版(2001年)の環境白書では、「持続可能な社会の構築に向けて、個人、行政、企業、民間非営利団体といった各主体間のパートナーシップを確立するために、環境負荷や環境保全活動等に関する情報を一方的に提供するだけでなく、利害関係者の意見を聴き、討議することにより、互いの理解と納得を深めていくこと」と定義している。また、1999年にOECDがまとめた「Environmental Communication」では、「環境面からの持続可能性に向けた、政策立案や市民参加、事業実施を効果的に推進するために、計画的かつ戦略的に用いられるコミュニケーションの手法あるいはメディアの活用」と定義している。2006年には国際標準化機構が環境コミュニケーションに関する国際規格化(ISO14063)を発行したこともあり、特に大企業などでは、ステークホルダーとのコミュニケーション活動の1つとして環境コミュニケーションという用語はかなり浸透してきた。水族館も組織である以上、多様なステークホルダーが存在する。来館者はもちろんのこと、設置者や出資者(納税者や株主など)、出入りの業者なども当然ステークホルダーである。よって、現在定義されている「環境コミュニケーション」もそのまま当てはめることができる。
しかし、特に日本では環境コミュニケーションを「企業が行う、ステークホルダーとの環境に関するコミュニケーション活動(CSRの一環)」と矮小化されて理解されているため、市民への広がりが無いことが残念である。「環境」も「コミュニケーション」も非常に深い言葉であるからこそ、現状の「環境コミュニケーション」では、何かもの足りないと考えている。具体的には「環境コミュニケーション」は、これからの「環境教育」の1つの方向性を示しているようにさえ感じている。
本発表では、まず、「企業」という小さな枠に取り込まれてしまった「環境コミュニケーション」を、もっと自由に解釈することを試みる。そして、水族館での活動の中に新たな「環境コミュニケーション」の概念を取り込み、その活動の意味や意義を問い直してみたい。
方法として、当シンポジウムのタイトルにある「生物多様性」「啓発活動」をメインキーワードに、「環境」「自然」「ヒト」「生物」「コミュニケーション」「環境教育」「インタープリテーション」「ESD(持続可能な開発のための教育)」「CEPA(広報・教育・普及啓発)」などのキーワードを検討することで「環境コミュニケーション」について考えたい。そして、その検討を踏まえ、水族館での環境コミュニケーションとはどのようなものか、また実際に行っている水族館での活動(環境コミュニケーションと意識しているかどうかは別として)について考える事とする。