2017年 JAZA関東東北ブロック水族館技術者研究会
展示課 田村広野,大野美優
キタノアカヒレタビラAcheilognathus tabira tohokuensisは,コイ科タナゴ亜科タナゴ属の日本固有亜種の淡水魚でイシガイ科二枚貝の鰓内に産卵する生態を持つ.減少が著しく環境省レッドリストでは絶滅危惧IB類(EN)である.秋田県,山形県,新潟県,福島県に分布するが,新潟県は分布の南限にあたり,生息地は局限的で生息数も極めて少ない.2015年に本種の集中的な調査を行い,生息地一箇所を確認して野生個体を導入した.2017年,11個体を飼育する展示水槽(水量3.0m3)から,雌は腹部膨満と産卵管の伸長と雄からの追尾,雄は婚姻色と雌への追尾により成熟個体を判別し,①4月4日②4月23日③5月6日の計3回,雌雄1個体を親魚に用いて搾出法により人工授精を実施した.採卵,採精はガラス製シャーレ(φ90mm×H20mm)を用いて,①50粒②58粒③31粒を採卵した.卵と精子を揺すって混合し、10分間程静止状態にして授精を促した後,親魚の飼育水で何度か換水し精液や粘液を洗い流し,複数のシャーレに分けた.この後は20.0℃の恒温室の暗所で管理した.数時間後,汲み置きして水温を合わせた飼育用淡水(水道水にチオ硫酸ナトリウム添加)で換水した.翌日から毎日,同様の方法で換水を行った.各回共,2日後に孵化した.人工授精から①28日②24日③19日後に頭を上にして泳ぐ仔魚を確認したため,3時間ほど明るくして浮上を促した後,①21個体②51個体③25個体を水温20℃の60cm水槽へ移動した.①はアルテミアを給餌したが,移動から6日後に全個体死亡した.②③は3日間,S型ワムシを与え,その後3日間はS型ワムシとアルテミア,続いてアルテミアや強化アルテミアを給餌した.7月8日から配合飼料も給餌し,2017年10月現在,最大で全長約6.0cmに成長し,②20個体③11個体が生存している.