2019年 JAZA 第45回海獣技術者研究会
展示課 大越智香,石川訓子,加藤治彦
2018年8月下旬,カマイルカLagenorhynchus obliquidensの雌1個体(2015年搬入,国内血統登録番号470)の妊娠が血中プロゲステロン濃度の持続的上昇により強く示唆された.本種の繁殖例は少なく,当館に於いては初の事例である.当館の実情に即した出産対応をするため,文献や聞き込みによる情報収集に加え,同じく出産を控えた施設への視察を行い,プール形状の平坦化,飛び出し防止柵の設置,妊娠個体の飼育管理と出産準備,監視体制整備等を整え出産に臨んだ.長辺14m,短辺7.5m,水深2.7-3m,水量300㎥の略長方形の屋内展示水槽を出産施設とし,予定出産日の2ヵ月程前に集水升やゲート表面,ラダーや吐水口等の窪み,アクリル側コーナー部等の水中構造物にトリカルネットとポリ塩化ビニル管で作製したガードを設置した.改造以降は本種雌個体と同居飼育し,体温が低下した出産4日前より単独飼育に変更し,24時間観察を開始した.出産は2019年7月29日で,破水から完全娩出までは46分,胎盤は2回に分けて排出された.初授乳は17時間後に確認した.子獣の遊泳安定までの人為的衝突防止対応は5時間継続し,軽微な擦過傷のみ発生した.子獣はその後5日間で2度,ネットと壁面への衝突があり吻先がやや削れたが大事には至らなかった.9月30日現在も子獣は生存し32日齢より自力摂餌を確認している.初事例であった今回の繁殖において,事前の情報収集,先行施設との連携や視察等は繁殖成功に有益であると考えられた.