2021年 JAA 第2回トレーニングセミナー
展示課 石川訓子
飼育下動物の妊娠から出産・育仔に渡る過程では,通常と異なりその時々に応じて飼育者の補助的な介入や環境の変化を与えることが通例である.飼育者にとっては予測可能な事態への対応策であっても,母獣にとっては新奇刺激であることは少なくない.新潟市水族館マリンピア日本海では,2019年から2021年の3年間にカマイルカLagenorhynchus obliquidensが毎年1頭ずつ繁殖し,現在誕生した3頭を育成中である.この3例において,母獣に対して実施した新奇刺激に対する不適切な反応を回避するためのトレーニングを3点紹介する.
1. 仔獣が壁に衝突することを回避するためのトレーニング
分娩直後から6〜7時間はトレーナーが専用の棒またはフィンで,壁に向かってくる仔獣を衝突させないように誘導する必要がある.そこで母獣には分娩時の人員配置でプールサイドに立つトレーナーと,使用する道具および動きに対して脱感作する.
2. 投餌と遊泳方向の変更や定位のトレーニング
出産後摂餌要求が上がっている母獣はトレーナーの前に定位しがちである.出産後2日程度は定位させず,母獣には仔獣の誘導を妨げないように短時間で摂餌できるよう,普段よりも大きな餌を投餌している.定位させる時は,仔獣がプールの内側になるよう母獣の遊泳方向を変更し,ステージと平行に泳いで来た時のみとし,母獣の水流に乗っている仔獣が壁に衝突する危険を避けるようにしている.このように,大きな餌の投餌による摂餌と遊泳方向の変更や定位までの動きをあらかじめトレーニングしておく.
3. 夜間給餌
夜間の照明には出産予定日の1か月前から馴致する.夜間給餌は24時間観察開始と同時に始める.1日の給餌量は変えず1回あたりの給餌量を少なくし,2〜3時間間隔で10回程度の給餌を行う.これにより昼夜を問わず体温測定や破水時の直接観察が可能となる.また出産後急激に増加する摂餌要求には,母獣の消化器系への負担を軽減する観点から,1回あたりの給餌量を2kg程度に抑えて対応することができる.
この他にも出産前の母獣に対し,想定できる新奇刺激に馴致しておくことは,繁殖成功に繋がる重要事項と考えている.