飼育下におけるスズメダイの繁殖

2021年 JAA 第2回水族館研究会

展示課 石澤佑紀,前田綾子

 スズメダイ Chromis notata は,スズキ目スズメダイ科スズメダイ属に分類される魚類で,太平洋側では千葉県以南,日本海側では秋田県以南,朝鮮半島東岸・南岸,台湾などに広く分布する.本種は,転石や岩の側面に付着卵を産み,雄が保育する.当館の水槽(水温21℃,水量800㎥)で擬岩や転石を産卵床とした自然産卵が確認されたため,本種の受精卵を回収して育成を試みた.本種の繁殖生態,受精卵と卵内発生については,田中(1989)による報告があるため,本研究では,育成のみを記録した.
 受精卵は,2021 年10 月12 日に直径約16cm の転石の底面に確認した.2 日後に発眼が見られため孵化直前と判断し,産卵床ごと取り上げた.移動用に収容したバケツ(水量10L)内で約2,500尾がふ化した.ふ化仔魚は,育成水槽として用意した円形の透明ポリカーボネート製水槽(水量500L)へ収容した.育成水槽では飼育水は循環させ、水温は500W ヒーター1 本を投入して約25℃に設定した.照明は30W 蛍光灯1 本を設置して24 時間点灯した.尚,稚魚期以降は,夜間は消灯した.孵化後0-21 日齢まで栄養強化(SCP:クロレラ工業)したS 型ワムシを10 個体/ml の量で給餌し,ワムシ給餌の期間は,冷蔵ナンノクロロプシス(ヤンマリンK-1:クロレラ工業)を40ml/日添加した.15 日齢からは強化アルテミアを併用給餌した.30 日齢からは冷凍コペポーダを中心に,配合餌料(アンブローズ400:フィードワン)を併用給餌した.
 孵化から2 時間後の仔魚は全長2.48±0.03 ㎜(n=3)で,開口はまだ無く,黒色素胞が前頭部や腹部など,黄色素胞は卵黄上部や尾部腹面などに見られた.2 日齢では全長2.88±0.02 ㎜(n=3)で,下顎が形成され開口を確認し,卵黄はほとんど吸収された.5 日齢では全長3.30 ㎜(n=1)で,黄色素胞は見られなくなった.13 日齢では全長4.3 ㎜(n=1)で,黒色素胞が頭部や腹部側面に見られた.17 日齢で生存個体が約20 個体となったため,以降の記録は生体観察とした.29 日齢で最初の個体が着底した.全長約5.5 ㎜であった.34 日齢では全長約8 ㎜で,体色は全身黒色を呈し,背鰭や尾部に黒色の帯状の模様,背鰭後方基部に白色斑点が認められた.この時点で生存個体は7 個体となった.59 日齢には全長約160.5 ㎜に成長し,以前よりも模様は明確に現われ,成魚と同様の体色を示した. 87 日齢では全長約170 ㎜で,6 個体となった.


     
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