2023年 JAZA 第49回海獣技術者研究会
展示課 石田茉帆,岩尾一,石川訓子
2023年2月14日,新潟市西区五十嵐浜に座礁したカマイルカLagenorhynchus obliquidens(雄,体長185cm,体重85kg)を保護した.屋内に設置した円形簡易プール(直径366cm,水深76cm,水量8㎥)に収容した.搬入時に大きな外傷はなかったが,血液検査で強い炎症反応,尾部の右屈曲と硬直,姿勢維持の困難が認められたため,24時間体制での介助を8日間実施した.9日目に自発遊泳を期待し,屋内プール(14m×7.5m,水深3m,水量300㎥)に移動したが,遊泳不良から沈降した.再度簡易プールに収容したが姿勢維持が再び困難になり,監視不在の夜間は担架に収容して管理した.11日目より重症肺炎を発症し,摂餌量の減少,削痩が進行したため,29日目より静脈輸液治療を計13日間実施した.最低給餌量を4kgに設定し,それに満たない場合は強制給餌を行った.体位の平衡と浮力維持,自立した遊泳の回復を目的に,32日目から自作した遊泳補助具を装着,34日目から尾部の硬直改善のため,マッサージや尾柄の上下運動の機能訓練などを並行して行ったところ,約10日間で自発的な上下運動が開始された.56日目以降は再度屋内プールに移動し,呼吸,姿勢維持および尾柄の上下運動を確認しながら,段階的に補助具を外した.また,他個体との同居も行い,個体干渉による刺激を与え,75日目には補助具無しでの遊泳が可能となった.高速遊泳やブリーチ,水深3mへの潜水が見られたことから十分に運動能力が回復したと判断し,82日目に長岡市寺泊港2-3km沖で漁業者の協力のもと放流した.座礁個体の保護は,検疫上,飼育個体との隔離を前提とした収容施設の確保が難しく,人的負担も大きいうえ,慎重かつ迅速な対応が必要である.また,外部機関への報告や手続きなど円滑な対応が求められる.本件は座礁個体に対する今後の最適な保護に資する事例となった.