2023年 JAZA 第49回海獣技術者研究会
展示課 渡邉拓也,岩尾一,松本輝代,小川みはる,石田茉帆,石川訓子
新潟市水族館マリンピア日本海では,2019年から2022年の4年間に,カマイルカLagenorhynchus obliquidensの繁殖が毎年1例ずつ,計4頭の出産があった.本種の出生後早期の成長に関する情報は少ないため,4例の繁殖時の対応,および出生個体の成長について比較した.4例ともに出産施設は,略長方形(長辺14m,短辺7.5m,水深2.7-3m,水量300㎥)の屋内展示水槽で,出産予定日の2ヵ月程前に集水枡や吐水口,はしご等の水中構造物にトリカルネットとポリ塩化ビニル管で作製したガードを設置した.母獣に対しては,出産から育子に亘る過程で,飼育者の補助的な介入や,環境の変化等の新奇刺激に対する不適切な反応を回避する目的で,子獣が壁に衝突することを防ぐための専用の棒とフィンを持った飼育者の動きに対する脱感作,子獣に対する母獣の誘導を妨げないように投餌による給餌のトレーニングを行った.体温が低下した日からは単独飼育とし,24時間観察を行った.出産時の4例のデータ(出産日,分娩時間,性別,体長)は,No.1(2019年7月29日,46分,雄,104cm),No.2(2020年8月4日,2時間13分,雄,95cm), No.3(2021年7月13日,1時間56分,雌,93cm),No.4(2022年8月9日,3時間18分,雌,103cm)であった.出産直後は子獣の遊泳が安定するまで,飼育者が専用の棒とフィンを用いて壁への衝突防止対応を2-7時間行った.初授乳は13時間30分-17時間後に確認され,自発摂餌は32-88日齢から始まった.母子の状態に即応するために,24時間観察は11-21日間継続した.子獣の体長は並泳する母獣の実測値から算出した概算で,365日齢での体長は,No.1,190cm,No.2,171cm,No.3,171cm,No.4,183cmであり,2023年9月25日現在も4頭ともに生存している.授乳時間と回数,子獣の摂餌量等の比較と行動観察を綿密に行うことは,生後1年以上の生存に有益であると考えられる.