高齢かつ両眼を失明したミナミイワトビペンギンの飼育管理

2024年 JAZA 関東東北・北海道ブロック動物園水族館合同技術者研究会

展示課 榊原陽子

 ペンギンは個体間闘争で眼の怪我を負いやすく,また高齢個体では白内障もよく見られる.怪我や白内障による視力低下,失明が起きると,歩行頻度や遊泳頻度の低下も生じ,陸上で立って静止することが多くなり足底部に圧力がかかり続けるため,趾瘤症も合併しやすい.
 現在,新潟市水族館で飼育しているミナミイワトビペンギンEudyptes chrysocomeは1993年生まれの一羽のみである.本個体は同居していたフンボルトペンギンの攻撃により,2001年5月に右眼を失明,左眼も白内障により徐々に視力が低下した.フンボルトペンギンから頻繁に攻撃を受けたり,側溝に落ちる頻度が増加したりしたため,2017年6月から非展示エリアでの単独飼育に切り換えた.
 単独飼育後は,長時間,同一場所で立っていたり,直径50 cm程度の範囲内を周回したりするなどの行動が見られ,趾瘤症の発症と悪化が生じた.当初,趾瘤症のケアとして床材はポリプロピレン製スノコや人工芝を使用したが改善は見られなかった.また患部へのワセリン塗布も多少効果があったものの,完治せず再発に至った.他施設のケープペンギンでの趾瘤症治療事例を参考に,2022年9月より,人工芝を重ね合わせ,ランダムな起伏を設けたところ,9か月後の2023年6月には趾瘤症が完治した.また,起伏を設けたことにより,運動範囲や入水頻度の増加が見られた.失明による歩行頻度や運動範囲の低下によって生じた趾瘤症が,床材の人工芝に起伏をつけたことで,安静時および歩行時の足底部に掛かる圧力が分散しやすくなったことで自己治癒が進んだものと思われる.今後は科学的な評価も取り入れ,福祉レベルの向上に努めていきたい.


     
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