2024年 第34回日本動物園水族館両生類爬虫類会議
岩尾一,原田彩知子(新潟市水族館)
小峰壮史,伊原兵吾,猪鼻真理,清水茜,寺澤紬,宮崎綾佳,倉田修,和田新平(日本獣医生命科学大学獣医学科)
吉田光範,星野仁彦,深野華子(国立感染症研究所ハンセン病研究センター)
Jennifer Caroline Kwok(ペンシルバニア大学獣医学科)
Saralee Srivorakul(チェンマイ大学獣医学科)
新潟市水族館で飼育しているハクバサンショウウオ Hynobius hidamontanus,クロサンショウウオ H.nigrescens,トウホクサンショウウオ H. lichenatusで,2010年頃より抗酸菌症の発症が連続した.主症状は皮膚潰瘍,突然死で,死亡個体のほとんどで重度の肝膿瘍がみられた.当初,抗酸菌培養は全て陰性だったため,診断は,病変部の押印標本の抗酸菌染色による菌体検出のみで行っていた.後日,冷凍サンプルによるPCR,培養条件の再検討により,起因菌はMycobacterium montefiorenseと同定された.M. montefiorenseは米国の水族館の皮膚病のウツボから発見,記載された非結核性抗酸菌であり,本事例はウツボ以降,二例目の動物での病原性を示す事例となった.2012年に発症が続いていた展示個体を全淘汰した結果,発症は一旦収まったが,その後,バックヤード飼育個体での発症が再発した.発症個体および同居個体の摘発淘汰,使用器具の使い分け・消毒,作業動線の見直し等の対策の実施後,小型サンショウウオ類での抗酸菌症は2020年以降発生していない.2014年,2018年の死亡個体由来の菌株を材料にした遺伝子解析結果からは,今回の小型サンショウウオの集団発生は同一の菌株によることが示唆された.M. montefiorenseは他の非結核性抗酸菌と同様に環境中に広く分布するが,飼育に使用していた水,床材等からの検出はなかった.そのため,感染個体の病変との直接接触,感染個体の排泄物で汚染された床材等を介して,感染が定着,拡大したものと憶測している.
変温動物の非結核性抗酸菌症は,同種および近縁種間で容易に伝染し,通常の細菌検査では見逃されやすいため,発覚時点ですでに被害が広まっていることが多い.両生類の抗酸菌症の被害拡大の予防のためには,日常的な抗酸菌症を想定した検査,サンプル保存,防疫対策に努めるべきである.