スナガニのメガロパ期までの育成記録

2024年 JAZA 第69回水族館技術者研究会

展示課 原田彩知子

 スナガニ Ocypode stimpsoni はスナガニ科スナガニ属に分類され,北海道南部以南の砂浜に分布する.本種を含め,スナガニ属ではゾエアからメガロパに至る育成記録は過去数件のみであり,今回,メガロパまでの育成に成功したため報告する.2024年7月21日に新潟市関屋浜で抱卵メスを採集し,海水で湿った海砂を約13 cm敷いたガラス製水槽(W600 × D295 × H360 mm)に収容した.同水槽には放仔用に海水をため通気したプラスチック製容器(W270 × D200 × H85 mm)を設置した.7月31日に放出されたゾエアを発見し,Kreisel水槽(φ333 mm × D100 mm,約8 L)へ収容した.水温は25.0-26.8℃,幼生が滞留しない程度に通気した.毎日1/3量換水し,16日齢までは5,6日に1回,死亡個体が目立ち始めた19日齢以降は2,3日に1回全換水を行った.ゾエア1期にはシオミズツボワムシ,2期からアルテミアノープリウス幼生,4期から冷凍コペポーダや活アルテミア,5期からビタクリンアダルトブラインを給餌した.Kreisel水槽での育成期間中は終始スーパー生クロレラV12を与えた.ゾエア2期は4日齢,3期:8日齢,4期:12日齢,5期:17日齢より現れ,頭胸甲長は1期:0.58 ± 0.01 mm(mean ± SD,n = 49),2期:0.84 ± 0.04 mm(n = 13),3期:1.13 ± 0.06 mm(n = 18),4期:1.80 ± 0.09 mm(n = 10),5期:2.66 ± 0.21 mm(n = 4)だった.23日齢より頭胸甲長3.58 ± 0.16 mm(n = 3)の大型ゾエアが,26日齢よりメガロパ:甲長3.94 ± 0.31 mm,甲幅3.48 ± 0.17 mm(n = 7)が現れた.稚ガニまで育成した知見はなく,31日齢よりメガロパを上陸用水槽に試験的に移動させたが,稚ガニに変態することなく45日齢までに全個体が死滅した.今後の課題は,共喰いを抑制できる飼育密度の最適化,水質が維持できる冷凍餌の給餌量調整等の対策,上陸できる環境やタイミングの把握が挙げられる.


     
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