飼育下ウミガラスで見られた親以外の個体による抱雛行動

2024年 JAA 第5回水族館研究会

展示課 榊原陽子

 ウミガラスUria aalgeでは親以外の成鳥が雛を世話する行動が観察される.この行動が生じる要因として,①血縁選択による利他行動②互恵的利他行動③雛による親以外の成鳥の操作④雛による親以外の成鳥の誤認識⑤親以外の成鳥による雛の誤認識の5つの解釈が示唆されている(Birkhead&Nettleship,1984;Wanless&Harris,1985).新潟市水族館では,2024年ウミガラスの自然繁殖の機会を得た.そこで,飼育下ウミガラスでも親以外の成鳥による雛の世話行動が生じるかを調査した.
 観察対象は,繁殖した親一組(以下親AB), 生まれた雛1羽,親ABの2023年繁殖個体(性不明)1羽,非繁殖ペア一組(以下CD),ペアがいない雄1羽,の計7羽である.調査期間は,孵化日の6月27日から自力摂餌が安定した10月3日までの99日間.各個体の行動は,8時~17時の間,ランダムに1セッション1分~15分間観察した.親AB以外による雛への給餌は見られなかったが,CDによる抱雛行動が観察された.抱雛は主に親ABが離れて雛が単独でいる時に見られ,孵化日から巣立った7月23日までの27日間,188セッション中,抱雛回数は雌9回,雄3回であった.親ABは戻ると抱雛しているCDを排除する行動が観察された.親以外の成鳥による抱雛行動が生じる解釈として,利他行動は親ABがCDの抱雛を許容していないことから否定的な結果となった.雛が適応度を上げるためCDを操作したのであれば,親ABはCDの抱雛を許容しうるのでこの解釈も否定的である.雛による親以外の成鳥の誤認識は,親子間の認識が発達しているウミガラスでは極めて低いため,抱雛行動が生じた要因としては該当しないと考える(Birkhead&Nettleship,1984).5つの解釈の中では親以外の成鳥による雛の誤認識が最も妥当であると考える.雛の世話行動を引き起こす基本要因には様々なホルモンによる働きがあるが,雛からの視覚的,触覚的,嗅覚的,聴覚的刺激も必要であるため,雛の鳴き声などが刺激となり抱雛行動が誘発された可能性が示唆される.野生下に比べ飼育下では雛が単独でいる時間が短く,親以外の成鳥が抱雛する場面に親が遭遇する頻度が高いため,排除する行動が多く,抱雛頻度は低くなったと考えられる.
 親以外の成鳥による抱雛行動は利他行動などの適応的な解釈をしがちであるが,今回の観察結果からは適応的な解釈には疑問が残るものとなった.客観的に行動を分析することが求められる.

参考文献
Birkhead, T. R. and D. N. Nettleship. 1984. Alloparent care in the common murre (Uria aalge). Can J Zool 62:2121-2124.
Wanless, S. and M. P. Harris. 1985. Two cases of guillemots, Uria aalge helping to rear neighbours' chicks on the Isle of May. Seabird 8:5-8.


     
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