調査・研究

研究会発表 抄録集

飼育下カマイルカの尿性状

2004年 第30回海獣技術者研究会

展示課 加藤治彦、新田誠、進藤順治、鈴木倫明


尿は、非侵害的に得られる生物試料で、動物の健康や生理状態の判断に有効な指標であるが、水中生活者である鯨目尿試料の採取は飼育下 であっても困難なため、その性状に関する報告は少ない。上陸横臥姿勢での排尿行動を条件付け、採取した。雄のカマイルカ Legenorhynchus obliquidens 1頭(2002.1.29 野生捕獲、体長220㎝,体重120㎏)の尿性状について報告する。 2002年7月10日から2004年6月30日までの約2年間に亘り、約1週間間隔で合計103の尿試料を採取し、 22項目の物理、化学的検査等の結果、以下の知見が得られた。

【物理的検査】
色調:透明淡黄緑色, 尿比重(ATAGO尿比重屈折計ユリコンJE使用):(平均±標準偏差,標本数=)
1.050±0.004,103,採尿量(ml):37.7±33.1,103.

【化学的検査】
pH:6±0.4,102,ウロビリノーゲン(±):100%,タンパク(-):97.1%,糖(-):100%,ビリルビン(-):99.0%,潜血 (-):99.0%.

【電解質濃度】
尿素窒素(mg/dl):2826±308.6,101,クレアチニン(mg/dl):55±11.8,101,Na(mEq/l):247±62.4,102,
K(mEq/l):126±27.8,102,Cl(mEq/l):250±57.4,102,Ca(mg/dl):5±4.3,102,Mg(mg/dl):9±3.7,102,
P(mg/dl):147±40.1,102,浸透圧(m0sm/l):1867±134.9,102.

【沈渣の鏡検(400倍1視野当り)】
赤血球(<1個):99.0%,白血球(<1個):100%,上皮細胞(<1個):99.0%,精子出現頻度:31.1%.


飼育下ハンドウイルカの尿性状

2002年 第28回海獣技術者研究会

展示課 鈴木倫明、加藤治彦、野村卓之、進藤順治、吉田直幸、○新田 誠
栗城智香、山際紀子、長谷川泉、石田祐子


尿は、動物の健康や生理状態の判断に有効な指標である。新潟市水族館では、飼育下鯨目の尿を週1回の頻度で 定期的に採取し、検査している。雌のハンドウイルカ Tursiops truncatus gilli 5頭(体長245~298cm、体重185.0~ 275.0kg、飼育年数3~15年)の尿性状について報告する。尿は、上陸横臥姿勢(=サイドランディング(平野他、1999)) での自発的な排尿行動をオペラント条件付けにより強化し採取した。検査項目は、物理的検査、化学的検査、沈渣の 鏡検、電解質濃度である。2001年12月6日から2002年11月27日までの約1年間で、合計201検体の尿標本が得られ、 19項目を検査した。尿性状の範囲を以下に示す。

【物理的検査】 色調:淡黄色、尿比重:1.027~1.062、採尿量:3~160ml
【科学的検査】 pH:5.0~7.5、ウロビリノーゲン:±~+、タンパク:-~+、糖:-、ビリルゲン:-~±、潜血-~++
【沈渣の鏡検】 赤血球:<1~10個/1視野400倍、白血球:<1~2個/1視野400倍、上皮:1~5個/1視野400倍
【電解質濃度】 尿素窒素:844~3123mg/dl、クレアチニン:28.7~192.5mg/dl、Na:165.0~620.0mEq/l、K:32.5~ 166.0mEq/l、Cl:205.0~620.0mEq/l、Ca:0.3~35.0mg/dl、Mg:2.0~16.5mg/dl、P:20.1~185.0mg/dl、浸透圧:1361 ~2356mOsm/kg


ビタミンE欠乏症を疑ったフンボルトペンギン雛の連続死

2010年 第20回ペンギン会議全国大会

展示課 ○岩尾一、山田篤


ビタミンE(トコフェロール)は、強力な抗酸化作用を持ち、細胞膜の安定性や脂質代謝に関わる脂溶性ビタミンである。ビタミンEが欠乏した動物の体内では、活性酸素により、生体膜のリン脂質に過酸化脂質が蓄積し、組織傷害や脂質代謝異常が起きる。ビタミンE欠乏症としての症状には白筋症、汎脂肪織炎、溶血性貧血、高脂血症などがみられる。

7, 8 家禽やワニではビタミンE欠乏による産卵率や受精率, 孵化率の低下、孵化仔の死亡率の増加も報告されている。

11.13 海産魚類は高度不飽和脂肪酸を多く含み、冷凍保存状態でも、脂肪酸の酸化とビタミンEの消費が進行し、長期間冷凍保存した海産魚類ではビタミンEが欠乏しやすい。したがって、飼育下の魚食性動物は潜在的にビタミンE欠乏症を発症する可能性が高いと想定され、特に冷凍餌料を与えている場合は、魚食性動物の餌にはビタミンEを日常的に添加することが推奨されている。

3, 4, 16 飼育下にある魚食性の鳥類(ペリカン1、サギ12、ウミスズメ15)や哺乳類(アザラシ6、アシカ2,5)、爬虫類(ガータースネーク9, ワニ10,11)では、ビタミンE欠乏症が古くから報告されているものの、ペンギン類での報告はない。3 新潟市水族館で孵化したフンボルトペンギンの雛で、ビタミンE欠乏症と考えられる連続死亡例がみられたので報告する。

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フンボルトペンギンの人為的なペア組み替え

2010年 第20回ペンギン会議全国大会

展示課 ○山田 篤


フンボルトペンギンは、CITESによって国際商取引が禁止されているため、附属書に掲載された1980年代初頭から現在に至るまで野生個体が輸入されていない。そのため、野生由来のファウンダー(創始個体)はすでに死亡しているか、生きていても繁殖不能な年齢に達している。2008年末の血統登録調査により、国内77施設で1675羽の飼育が確認されているが、近親交配を避けるためと、同一家系の子孫が増えすぎるのを防ぐために、繁殖制限を行っている施設が多い。 当館では、1977年に川原鳥獣店より12羽を購入して飼育を開始した。そのうちの8羽が繁殖に関与して、現在は74羽に増えている。少ないファウンダーからの繁殖であるため、当館も例に漏れず、近親交配を避けるための繁殖制限を行っている。

2008年末に形成されていた31ペアのうち、近親交配になるものが12ペア、オスが高齢で受精能力がないものが7ペア、どちらか一方が生理的もしくは遺伝的な異状で繁殖できないものが4ペア、メス同士のものが4ペアで、特に問題がなく繁殖可能なものはわずか4ペアであった。 フンボルトペンギン繁殖計画では、人為的なペアの解消がストレスを与えるとし、種卵の移動による新たな家系導入を推奨しているが、導入個体が自園館で飼育している個体と子孫を残すと、新たに近親交配となるペアが発生する恐れがある。当館でも、他の園館から種卵の移動による新たな家系導入を行っているが、導入個体と当館ファウンダー血縁個体がペアを形成して繁殖し、その繁殖個体が血縁上の問題で繁殖できない状態に陥っている。

そこで、今後の繁殖個体群の形成を優先し、人為的なペア組み替えの試みを下記の3例実施した。

  1. 2009年3月に、近親個体とペアを形成していたオスとメス各2羽を、ペアを人為的に解消して繁殖用隔離スペースに移動した。しばらくの間は4羽が一緒に行動していたが、3か月後の6月に1ペアが形成された。

  2. 上記の組み替えによって展示スペースに残されたオス1羽のペアリングもできた。この個体はペアを人為的に解消した1か月後に新たにペアを形成したが、相手が当該個体の子であったため、何度か人為的な操作(個体の移動)を行って血縁のない個体とのペアができた。このペアは9月に産卵したが、残念ながら胚の発生が止まって繁殖には至っていない。

  3. 昨年の繁殖個体(オス)がペアの相手を探していて次々と血縁のある個体とペアになった。そのため、2009年9月にメス同士のペアを人為的に解消して一方を隔離し、もう一方の個体と当該個体のペアリングを展示スペースで行った。2週間後に狙い通りにペアを形成したが、未だに巣を確保できないでいる。


以上の結果、全ペア数は29に減ったが、特に問題がなく繁殖可能なペアが7ペアに増加した(①の残りの2個体はペアリング中)。今後の繁殖に期待する。ただし、オスの高齢化が進んでいるため、あと2,3年で繁殖不能な年齢に達してしまうと考えている。その間にできるだけ受精卵を回収して仮親に預けて当館のファウンダー血縁個体を増やし、同時に種卵の移動による新たな家系導入も計画的に行って、当館の飼育個体群をより長く存続させようと考えている。

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生物多様性条約と動物園水族館~CEPAの紹介(話題提供・ポスター)

2010年 第50回日本動物園水族館教育研究会

管理課 大和 淳


2010年10月18日~29日に名古屋市で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催され、愛知ターゲットをはじめとするいくつもの議案が採択、決定された。

2002年にオランダで行われたCOP6で「2010年目標」が採択されたが、ほとんど達成されなかった。日本のNGO である生物多様性条約市民ネットワーク(CBD市民ネット)はその原因のひとつを「2010年目標が認知されていなかったから」とし、2011年からの10年を「国連生物多様性の10年」とするよう提案。それが日本政府案となり、国連採択するようCOP10で勧告決議された。その中でも「広報、教育、普及啓発(CEPA)」が重要と認識され、「国連生物多様性の10年のためのCEPA活用及び拠点・運営体制の設置、並びにCEPAの関連ステークホルダーにILC(先住民族等)を含むこと等」が決定された。

CEPA(Communication,Education And Public Awareness)とは、生物多様性条約第13条に定められた「公衆のための教育及び啓発」についての活動義務であり、生物多様性保全に関わる者にとって重要な「ツール」であり「キーワード」である。愛知ターゲット等を推進するべく国内のセクターを超えたCEPA組織づくり、情報共有プラットフォームづくり、作業計画の策定をする必要がある。

動物園と水族館は年間のべ6500万人もの来場者がある施設である(2009年、JAZA加盟園館データより)。CEPAにとって動物園水族館は非常に重要な「場」である。同時に、動物園水族館職員がCEPAという「ツール」「キーワード」を知り、CEPA組織と連係することで、より効果的な生物多様性保全の取り組みができると考えられる。


腸管クロストリジウム症を疑ったハンドウイルカの一例

2010年 第36回海獣技術者研究会

展示課 ○岩尾一,山際紀子,鶴巻博之


腸管クロストリジウム症は, クロストリジウム属菌によって引き起こされる消化器疾患の総称である. 鯨類の腸管クロストリジウム症は, 国内では急性の死後判明例のみが報告されており, 主な起因菌は Clostridium perfringens (以下Cp) である(寺沢, 2007). Cpは腸管の常在菌であり, 腸管クロストリジウム症の生前診断は困難である(Marks And Kather, 2006).当館で飼育しているバンドウイルカ Tursiops truncatus での腸管クロストリジウム症の疑い例と, 投薬介入後の経過を報告する。

2009年4月5日(第1病日), 1頭のバンドウイルカ(雌:国内血統登録番号388, 体長298cm, 体重270kg)が早朝, クリーム色の粘稠便を排泄し, 塗沫検査では便中には多数の白血球が出現した.その後, 便の色調は緑褐色から山吹色まで変化し, 便中に散発的にCp様のグラム陽性大型菌や白血球が少数出現(<5個/400倍1視野)するものの, 体温, 行動に異常を認めないため, 経過観察を続けていたが, 第18病日には多数のCp様菌体が出現し(>20個/1000倍1視野), 第20病日には黄色の粘稠便を排泄し, 便中には白血球や赤血球の出現も認めた。

異常便は腸管クロストリジウム症によるものと仮診断し, 第20病日より, メトロニダゾール(以下MZ)(10mg/Kg 1日2回 経口投与)の投与を開始すると, 便性状が正常化したため, MZ投与は第30病日で終了した。しかし, 第42病日に再度, 粘稠便の排泄とCp様菌体の便中出現を認めたため, 再発と判断し, 第52病日までMZを投与した。その後, 現在まで再発を認めていない。

第20病日に採取した便からは, 嫌気培養でCpが7日後に分離同定された。治療期間中を通じて, 体温, 行動, 血液検査での異常は認めなかった。本症例は, 培養同定と塗沫染色の結果, MZへの反応性から, Cpによる腸管クロストリジウム症であったと強く疑われ, 便の顕微鏡検査が診断と治療評価に有効であったと考えられた。

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ゲンタマイシンを筋肉注射したハンドウイルカにおける治療薬物モニタリング

2010年 第16回日本野生動物医学会

展示課 ○岩尾一、村井扶美佳、鶴巻博之


アミノグリコシド系抗生剤ゲンタマイシン(GM)には腎毒性があるため, 投与時は治療薬物モニタリング(TDM)の実施が推奨されている(Papich And Riviere, 2007)。 Enterococcus faecalisによる腎盂腎炎に罹患しているハンドウイルカ(210kg)に, アモキシシリン(25mg/Kg, PO, Bid)と同時に, GMを筋肉注射で投与した。

GMの目標血中濃度はピーク値20μg/Mlとし, 家畜間のアロメトリー分析から推定したGM分布容積(Vd)(206ml/Kg)(Martin-Jimenez And Riviere, 2001), 90%と仮定したバイオアベイラビリティ(BA)に基づき, 実投与量を4.8mg/Kg, Sidと決定した。TDMはGMの投与開始5日目に, 筋肉注射後の4つの採血点(0, 1, 3, 6時間後)で実施した。結果, ピーク値の実測値は14.1μg/Mlとなり, BAは61.2%と推定された。

消失半減期(T1/2), BAで補正したVd, クリアランス(Cl)は1.45時間, 202.6 Ml/Kg, 96.65 Ml/Kg/Hとなった。トラフ値は検出限界以下で, 血液や尿検査で腎毒性は認めなかった。家畜と比較し, T1/2, Vd, Clは大きく違わなかったが, BAは低くなった。理由として注射部位からの薬剤の漏出あるいは推定よりも分布容積が大きかった可能性が考えられた。同系薬のアミカシンを筋肉注射した他種の鯨類でも, 類似したBAの低さが報告されている(KuKanich Et Al, 2004)。

鯨類でのアミノグリコシド系薬の投与量を適切に設計するためには, 静脈注射時のデータとの比較が今後必要である。

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ハンドウイルカの胴周囲長と体重との相関

2009年 第35回海獣技術者研究会

展示課 ○小林稔、鶴巻博之、松本輝代、村井扶美佳、山際紀子、加藤治彦


飼育動物の体重の増減は成長状態の把握ばかりでなく餌料からの摂取熱量が適切かどうかの指標として有用である。鳥羽山ら(1989)は、体重と背鰭前方の胴周囲長及び体長の相関式を示しているが、体長は測定誤差が大きいという難点がある。新潟市水族館ではハクジラ亜目の身体測定の一部として4箇所の胴周囲長を測定しているが、胴周囲長と体重には正の相関があると予見されるため、調査した。

調査には飼育下のハンドウイルカ5頭(野生由来、雌、飼育年数9~19年、個体略号C、K、Y、R、A)を用いた。週1回の頻度でバースケール体重計に上陸させ体重を測定し、あわせて上陸伏臥姿勢及び上陸側臥姿勢をとらせ、メジャーを用いて胸鰭基部後方(G1)、背鰭基部前方(G2)、生殖溝直前(G3)、肛門上(G4)の胴周囲を測定した。

個体毎の各部周囲長と体重の相関を調査した結果、CはG1、KとYはG2、RはG3、AはG4と体重の相関が最も強く、体重は胴の特定部位の周囲長と必ずしも相関が強いとは言えない結果が得られた。単独の周囲長で最も体重との相関が強かった相関係数(R)の範囲は0.71~0.86だった。一方体重と4箇所の測定値の和の間には全個体で強い相関がみられ、Rの範囲は0.86~0.99だった。

この結果から、全個体の体重と周囲長の和の関係式を算出し、以下の数式を得た。
W=1.336Gs-400.8  (W:体重(㎏)、Gs=G1+G2+G3+G4:各部周囲長の和(Cm)) R=0.93

本調査ではハンドウイルカの体型が個体毎に異なるという結果が得られたが、4箇所の胴周囲長を測定し体型の個体差を補正することにより精度の高い体重推定が可能なことが明らかとなった。得られた関係式はストランディング個体や体重測定ができない場合に適用可能と思われる。

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ゴマフアザラシ新生仔の腸炎および後天性臍ヘルニア治療例

2009年 関東・東北ブロック水族館飼育技術者研究会

○ 田村 広野1),山﨑 幸雄1),岩尾 一1),小田 史彦2)
( 1)新潟市水族館マリンピア日本海,2)ノブ動物病院)


新潟市水族館では2009年3月18日に野外の展示水槽(水量300m3)の陸場でゴマフアザラシ Phoca largha が出産し,同所を柵で仕切り他個体と隔離して母獣と新生仔(雄,出生時:体長59㎝,体重8.04㎏)を飼育した。3月20日(2日齢)の朝に嘔吐と黄褐色水様下痢を示し,衰弱に陥った。下痢便のグラム染色とレントゲンの結果から,クロストリジウム属細菌による腸炎と産生ガスによる鼓腸症と推定された。

一時,危篤状態になったが,保温,皮下補液,浣腸,鎮痛剤,ステロイド剤,抗生剤による治療を行い,夕方には回復した。乳糖の異常発酵が発症原因と疑い授乳制限を行うため,夜間は新生仔を母獣から離して室内で飼育した。3日齢早朝,臍帯脱落部から腹壁まで達する直径約5mmの穴が開き,大網(腸間膜の一部)が5cmほど露出しているのを確認した。同日午後,動物病院にて吸入麻酔下で腹壁切開による臍ヘルニア整形術を施した。屋内飼育を継続し日中は適時,母獣の所に連れて行き授乳させ夜間は室内に戻した。腸炎および術創のため8日齢まで抗生剤注射を実施し,同日から母獣との同居飼育を再開し夜間も母獣に哺育,授乳させた。

術創の治療には毎日,抗生剤軟膏を塗布し11日齢に抜糸を行った。腸炎の治療は2日齢には胃カテーテルで整腸剤,電解質液,ブドウ糖液の投与を行い,3日齢は抗生剤,整腸剤,ブドウ糖液,エスビラックリキッド犬用(以下:エスビラック),4日齢から10日齢は抗生剤,整腸剤,エスビラック,水生哺乳動物用粉ミルクとした。18日齢より軽度の下痢が再発したため,20日齢まで抗生剤,整腸剤,エスビラックを投与した。4月11日(24日齢)に離乳に至り,体重は18.46㎏であった。

後天性臍ヘルニアの発症原因は,鼓腸症で腹圧が増加したことによる臍帯脱落部の脆弱化が一因と考えられた。

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アシナガスジエビの育成と幼期の形態

2008年 第53回水族館技術者研究会

展示課 ○ 新田 誠


アシナガスジエビは,房総半島および新潟県以南から九州沿岸にかけて分布する。 本種は,倉田(1968)により,神奈川県荒崎産の幼期の形態が報告されている。 この度,日本海側の北限域にあたる新潟県産の幼生を育成し,幼期の形態および生態を観察したので報告する。

親エビは,2008年7月に新潟県柏崎市で採集した。 自然抱卵後,発眼卵が確認された親エビをプラスチック水槽(400×300×200mm,水量20L)へ移動して孵出幼生を得た。 幼生は,室温が22℃に設定された室内で飼育し,照明は7~18時の11時間点灯した。 餌料は,栄養強化(プラスアクアラン,BASF Japan 製)したシオミズツボワムシを約40個体/mL与え,成長に伴い栄養強化したアルテミア幼生を投与した。 弱い通気を常時行い,底面の掃除と飼育水の1/3量換水を1日1回行った。

ゾエア幼生8期を経て,孵出33日後にメガロパ期となり着底した。1期は,全長平均2.35mm,甲長0.51mm,眼は頭胸甲と癒合して不動,第3腹節の背甲が 鎌状に隆起する。尾節周縁の羽状毛は7対。2期,全長平均2.89mm,甲長0.66mm,眼は有柄可動となる。頭胸甲に背歯と眼上棘が出現する。 3期,全長平均3.63mm,甲長0.70mm,背歯が2本となる。第6腹節と尾節が分離し,尾肢が出現する。4期,全長平均4.01mm,甲長0.76mm, 頭胸甲の背歯が3本になる。第5胸脚が著しく伸長し,尾肢の内肢が発達する。5期,全長平均4.87mm,甲長0.85mm,腹肢の原基が出現する。 6期,全長6.00㎜,甲長0.95mm,腹肢が内外肢に分離する。 7期,全長6.05㎜,甲長1.10mm,第1,第2胸脚がはさみ脚となる。8期,全長6.70㎜,甲長1.20mm,腹肢に短毛が認められる。 メガロパ期は,全長7.50㎜,甲長1.45mm,第2触角内肢が伸長し,額角の上縁に11歯,下縁に5歯が出現した。

幼期数は,倉田(1968)と同様であったが,幼期の羽状毛数やメガロパ期の額角歯数等が相違した。


ゾエア1期

アシナガスジエビ(親)


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