調査・研究

研究会発表 抄録集

人工育成したアカムツの親魚養成技術開発への取り組み

2019年 第64回水族館技術者研究会

 新田誠 1), 八木佑太 2), 石澤佑紀 1) 1) 新潟市水族館 展示課  2) 水産研究・教育機構 水産資源研究所 

新潟市水族館では,アカムツの飼育展示を維持するために人工育成を実施している.人工育成の課題は受精卵の確保であり,採卵・採精用親魚を安定的に確保するための親魚養成技術の開発が必要不可欠である.本種の天然海域での成熟年齢が雄3歳,雌4歳であることから,2014年に卵から育成した3-4歳魚を対象に,親魚養成を目的とした成熟検査を実施した.水量3m3,水温12.8±1.2℃,照明なしの飼育条件(2017年10月-2018年9月)で成育した人工育成魚93尾(3歳8ヶ月-4歳)を対象とし,生物精密測定(雌雄の判定,全長,体長の測定および体重,生殖腺重量の秤量)を行い,生殖腺重量指数(GSI)を算出した.性別は雄72尾,雌6尾,不明15尾で,性比が雄に偏る傾向がみられたため,本研究では,雄の成熟度の検証に重点を置いて実施することとし,人工育成した雄個体の精子性状,および天然雌個体との受精能力に関する検査を行った.搾出法で得た6尾(4歳齢,飼育条件:水量3m3,水温12.8±1.2℃,照明なし)の精子性状は,精子数21.1×108-132.8×108/ml,活性1以下-60%,pH6.8-7.2であった.2018年9月に,天然雌との人工授精を計6回実施した結果,浮上卵率は3-91%,浮上卵数に対する孵化率は0-20%の範囲にあり,GSI0.22以上で受精能力を有することが確かめられた.精密測定した93尾(全長115-307㎜(185.5±26.3),体長94-253㎜(150.5±22.0),体重22.7-391.8g(99.7±46.6))のうち,雄72尾のGSIは0.10-2.35で,73.6%が成熟と考えられるGSI0.22以上であった.雌6尾のGSIは0.16-1.62で,天然の成熟雌のGSI8.21-19.41(N=19)と比べて未熟であったため,同じ飼育条件では成熟しないと判断された.雌の成熟度の検証には人工育成した雌個体が必要であり,今後の親魚養成技術開発の進展には,雌を育成するための条件を解明する必要がある.

キダイの人工授精と育成の試み

2015年 第60回水族館技術者研究会

展示課 新田 誠,吉田直幸

キダイDentex tumifronsは,青森県以南の日本海・千葉県以南の太平洋・東シナ海の水深80~200mに生息し,全長35㎝に達するタイ科魚類である.生体入手が困難なため,初期生活史に関する知見は乏しく,育成では,岡ら(1956)による1日齢までの記録しかない.育成個体の展示を目的として人工授精を試みた結果,1腹分の受精卵が得られ,8日齢までの仔魚の形態を記録した. 2015年10月16日に,新潟県長岡市の寺泊沖から親魚を入手した.雄は全長275mm,体重470g,雌は全長262mm,体重330gで,船上で搾出法による採卵と採精を行った.完熟卵と精子が同時に採取できなかったため,先に採取した精子を人工精漿中に保管し,完熟卵入手後に乾導法で受精させた.採卵数は約9,000粒で,受精率は約3%であった.卵は0.91±0.02㎜(n=10)の無色透明の真球形の分離浮性卵で,0.17㎜(n=10)の油球1個が認められた.水温22.7±0.7℃で,受精後36時間で孵化した.孵化仔魚は,全長2.00㎜(n=1)で油球は卵黄(長径0.83㎜)の後端に位置していた.筋節数は9+17=26で,黄色素胞が眼の後端,卵黄,尾部の第20~23筋節に見られた.2日齢(n=1)で眼の黒化,開口を確認,尾部の黄色素胞が消失し,卵黄の大部分が吸収された.6日齢(n=1)で卵黄と油球の吸収が確認された.育成水温は22.3±0.5℃で,12日齢まで生存した.受精卵は30Lパンライトで水温約22℃で管理し,孵化仔魚は500Lパンライトで約22℃で育成した.初期餌料には開口直後から栄養強化(SCP:クロレラ工業㈱)したS型ワムシ(約150μm)を15個体/mLで給餌し,飼育水には冷凍ナンノ(K-2:クロレラ工業㈱)を毎日15g添加した.開口直後の口径は130μm(n=1),1日後で185μm(n=1)であった.仔魚が卵黄吸収期以降も生存したため,S型ワムシは餌料として適合したと考えられた.

飼育下におけるロクセンスズメダイの育成

2015年 第60回水族館技術者研究会

展示課 西村祐加里,澁谷こず恵,新田誠

ロクセンスズメダイAbudefduf sexfasciatusは,神奈川県三浦半島~琉球列島の水深1~20mに生息するスズメダイ科オヤビッチャ属の魚類である.2014年6月に水量40㎥,水温21.5℃の水槽で擬サンゴを産卵床とした自然産卵が観察されたため,育成を開始した.本報告は,2015年8月29日に採取した卵から仔稚魚の育成にともなう個体の形態変化を記録したものである.卵は,孵化直前に産卵床ごと取り外し,500Lパンライトに収容した.飼育水は循環させ, 起流ポンプ(Koralia 5200:Hydor)を用いて5秒間隔で水流を当てた.照明は30W蛍光灯を日中のみ点灯した.孵化後は,産卵床を取り出し,仔魚の育成を行った.飼育水は循環させ,冷凍ナンノ(K-2:クロレラ工業)を15g/日添加した.照明は24時間点灯し,稚魚期以降は夜間に消灯した. 水温は,仔魚の成長促進を目的に,卵管理時は約27℃,仔魚育成時は約28℃に設定した.15日齢で育成個体が2個体となったため,以降の記録は生体観察とした.孵化後0-12日齢まで栄養強化(SCP:クロレラ工業)したS型ワムシを給餌し,11日齢からは強化アルテミアを併用給餌した.卵は長径1.32±0.03mm,短径0.59±0.10mm(n=5)の繭型をした付着沈性卵で卵黄が赤色を呈していた.産卵から最初の孵化までは,121時間を要した.孵化仔魚は,全長2.89±0.03 mm(n=5)で,油球(0.26±0.03mm)が卵黄(0.44±0.01mm)の腹面前方に位置していた.黄色素胞が卵黄上部および眼の後端から第3筋節にかけて密に見られた.口の形成は認められたが開口はしていなかった.開口は12時間後に確認された. 16日齢で1個体が着底し,稚魚期への移行が推測された.着底直後の体色は全身黒色を呈し,模様は認められなかった.23日齢で黒色横帯が4本出現し,25日齢で5本となった.30日齢で尾鰭上下両葉に黒色帯が現われ,成魚と同様の体色を示した.

アカイサキの産卵行動と仔魚の形態

2018年 第63回水族館技術者研究会

展示課 新田誠

アカイサキ Caprodon schlegelii(ハタ科ハナダイ亜科アカイサキ属)は,水深40~300mに生息する深海性の種である.当館で飼育中の個体が水槽内で産卵したため,産卵行動と仔魚の形態の記録をおこなった.最初の産卵は2016年9月13日に,水温約14℃,水量2.5m3の水槽で確認された.産卵行動を4回観察した結果,親魚は雄1尾,雌2尾で,雄が雌を水面に誘導後,水面で放精,放卵するのを確認した.産卵時刻は6時40分~8時50分,1尾の産卵は1日1回であったが,同日に2尾の雌による産卵も確認された.産卵は2017年2月27日まで継続し,計37回行われた.卵は,水量30Lの水槽で,水温19.0~24.6℃でふ化まで管理し,仔魚は,水量500Lの水槽で,水温19.2~25.8℃,栄養強化したS型ワムシを給餌して育成した.浮上卵を回収して計数した結果,1日の産卵数は1,160~54,230粒,受精率は4~93%であった.卵径は0.89±0.01㎜(n=10),真球形の無色透明の分離浮性卵で,0.19㎜の大油球1個が確認された.ふ化は,受精23時間後に開始され,ふ化数は0~14,790尾、ふ化率は0~100%であった.ふ化直後の全長は1.88±0.17㎜(n=7)で,膜鰭を呈し,眼の黒化は見られず,口と肛門は未開口であった.黄色素胞が体側背面と腹面に各1個,黒色素胞が背面に5個,腹面に4個見られた.3日齢で口と肛門が開口した.18日齢で腹鰭の原基が形成され,24日齢で腹鰭に鰭条が形成された.育成は,最長で28日齢までであった.仔魚の形態では,腹鰭の発達が早く,膜鰭分化前に鰭条が形成されるのを確認した.しかし,ハタ科に特徴的な腹鰭鰭条の伸長は見られなかった.育成では,天然海域の標本と比べ,体長に対する器官形成が遅れていたため,死亡原因を成長不良と推測した.成長不良は育成水温に起因する事例が知られるため,適性水温の解明が今後の課題となった.

アカテガニの飼育下繁殖について

2014年 関東・東北ブロック水族館飼育技術者研究会

展示課 原田 彩知子

アカテガニ Chiromantes haematocheir は十脚目ベンケイガニ科アカテガニ属に分類される陸生のカニで、岩手県以南、南西諸島、台湾、中国北部に分布する。本種のゾエア幼生から稚ガニにいたる飼育知見は少ない。飼育下繁殖による育成記録を報告する。 親個体は2011年10月24日に佐渡市沢根海岸で採集した。2014年7月17日にアクリル水槽 (W400 mm×D250 mm×H200 mm) に、オス1個体とメス2個体を収容し、展示した。室温25 ℃、餌はアカムシ、栄養強化した冷凍ブラインシュリンプ、エビカニ用配合飼料、肉食魚用配合飼料を週5回の頻度で与えた。同年7月5日に抱卵を確認し、7月22日に海水をはったポリプロピレン製飼育容器 (W385 mm×D208 mm×H290 mm) へ移動した。7月23日に放出されたゾエア幼生を発見し、太鼓型アクリル水槽 (φ333 mm×D100 mm) へ収容した。止水下で弱く通気を行った。毎日1/3換水を行い、強化シオミズツボワムシと冷凍ナンノを与えた。メガロパ期で海から河口へ遡上することから、17日目にメガロパ幼生を確認してから、徐々に淡水の分量を増やした。餌は上記に加えて栄養強化したアルテミアノープリウス幼生も与えた。また、24日目からメガロパ幼生10個体をガラス製容器 (φ290 mm×H150 mm) へ移動し、餌は栄養強化した冷凍コペポーダに変更した。稚ガニは27日目から確認され、3個体は脱皮を追跡するため、300 mLデリカップに1個体ずつ収容した。稚ガニには強化冷凍コペポーダ・ブラインシュリンプ、粉砕したプレコ用配合飼料を与えた。毎日ほぼ全換水を行い、淡水は4日ごとに100 mLずつ増量し、69日目の現在、海水・淡水比は1:4である。 放仔後0日齢幼生は頭胸甲長0.37 ± 0.05 mm (mean ± SD、n = 5)、脱皮は水温26.9 ~ 27.2 ℃下において約4日間隔で観察され、8日齢0.66 ± 0.04 mm (n = 5)、17日齢メガロパ幼生は甲幅1.00 ± 0.08 mm (n = 5)、甲長1.01 ± 0.12 mm (n = 5) であった。最初に確認した稚ガニは、26.2 ~ 27.2 ℃下において27日齢で甲幅1.04 mm、67日齢で 4.10 mmに成長した。
上部へ