調査・研究

研究会発表 抄録集

ハンドウイルカにおけるボリコナゾールの治療薬物濃度モニタリングの1例

2012年 第38回海獣技術者研究会

展示課 岩尾 一,加藤 結,鶴巻 博之


広域アゾール系抗真菌薬のボリコナゾール(VCZ)は人では個人間での代謝速度の変異が大きいため, 治療失敗や副作用回避のための治療薬物濃度モニタリング(TDM)が推奨されている. 海獣ではVCZ代謝が極端に遅いため, 海外では7-14日間隔での間欠投与が推奨されている.

内視鏡検査, 胃液および前胃壁生検サンプルの培養と細胞診で, Candida glabrata感染による前胃炎と診断し, VCZを投与したハンドウイルカ(200kg, 雌)でのTDMの結果を報告する. VCZは2mg/Kg, 1日2回で, 1, 2, 3, 10, 17, 27日目に経口投与した. VCZ投与開始後, 30日目以降の複数回の内視鏡観察で前胃壁の病変も改善し, 培養検査でもC. Glabrataの発育が陰性化したため, VCZ投与は27日目の投与をもって終了した. 以後, 再発は見られていない. TDMは, 4, 7, 10, 17, 24, 27, 32, 37, 42日目の給餌前に採取した血液中のVCZ濃度を測定して行った. 各日の血中VCZ濃度は, それぞれ5.74, 3.76, 2.63, 2.61, 1.13, 1.5, 3.32, 1.02, 0.8ug/Mlであり, バンドウイルカでのVCZ半減期は約7日程度と長いことが確認された. 治療期間中を通じて, VCZの血中濃度は至適濃度を達成していた. 血液検査上は治療期間後半に肝酵素値の軽度上昇が見られたものの(投与前よりASTは約30%, ALTは約40%上昇), 投与期間中を通じて顕著な臨床上の異常は認めず, 効率的かつ安全なVCZ投与を達成できたと考えられた. また, 1.0ug/Ml程度と予想した27日目の血中濃度が1.5ug/Mlとやや高値となったのは, 体内でのVCZの蓄積も理由のひとつとして疑われた.


アオウミガメChelonia mydasのビタミンD欠乏症の一例

2012年 第18回日本野生動物医学会

展示課 岩尾一, 澁谷こず恵


【序】
代謝性骨疾患(MBD)は, 飼育下の爬虫類で好発する疾患であり, ビタミンD欠乏症, カルシウムの摂取不足, リンの過剰摂取, 腎不全等が原因となる. ビタミンDの欠乏要因としては, 経口からの摂取不足, 紫外線不足による体表での合成不良がある(Ulirey, 2003).飼育下のアオウミガメ Chelonia mydas が, ビタミンD欠乏症によるMBDと確定診断されたので, その臨床経過を報告する.

【症例】
屋内にて紫外線照射を行わず飼育していた野生由来のアオウミガメ(搬入時直標準甲長:69.4cm, 体重:50.2kg)が搬入後約23ヶ月目ごろより, 食欲不振, 元気消失, 浮遊姿勢の異常の症状を呈したため, 別水槽に隔離し, 診察を行った(第1病日). 身体検査では削痩, 橋部および背甲の軟化, 甲板境界部での結合組織の脱落, 成長線の消失,古い甲板の脱落不良が明らかになった. 血液検査では血中カルシウム値の軽度低下のほかに著変を認めなかった. 飼育履歴と臨床症状からMBDを疑い,爬虫類用紫外線灯の設置を第2病日より行った. 第5病日より摂餌が回復してからは, 炭酸カルシウム剤の経口投与(餌のマアジ500gにつき150-300mg, PO)を開始した. 第2病日の凍結保存血清中の25-OH-ビタミンD濃度は検出限界値未満(<0.5ng/Ml)であり, ビタミンD欠乏症と確定診断されたため, 第17病日よりはコレカルシフェロールの投与(400IU/Kg, IM, Q14day.2)も行った. 第156病日の採血時には, 血中25-OH-ビタミンDの値は25ng/Mlまで回復し, 甲羅の異常も改善傾向である.

【考察】
ビタミンDの摂取経路は, 経口と紫外線による体表での合成の主に2つあるが, どちらかのみに依存した動物種もある(前者の代表は哺乳類の食肉目, 後者は爬虫類のイグアナ)(Ulrey,2003).カメ類における経口でのビタミンD吸収能を調べた事例はないものの, 経験的にはウミガメ類では紫外線照射を行わなくとも屋内飼育が可能であることから, 餌に含有されるビタミンDを摂取することで最低限のビタミンD要求は満たせるものと思われる. 特に海産魚はビタミンDを豊富に含む(Bernard And Allen, 2002).事実, 本症例個体と同水槽で飼育されていた同種他個体(N=3)については,甲羅の成長線もはっきり確認でき, ビタミンD欠乏症を疑う症状は現れていなかった. しかし, 屋内飼育下のアオウミガメは, 野生もしくは屋外飼育個体よりも血中25-OH-ビタミンDが低値を示すという報告が増えており(Purgleyet Al., 2009; Stringeret Al., 2010),紫外線照射も重要な要素であるようだ.

症例個体は, 同居していた他個体に餌を奪われがちで, 十分な摂餌が行えていなかった様子が発症数ヶ月前から見られていた. 紫外線照射がなく, ビタミンDの供給が餌由来に限られている状況で, さらに餌からのビタミンD摂取も制限され, ビタミンD欠乏症を発症したものと考えられた.


アカムツの人工授精と仔魚の初期飼育について

2012年 第56回水族館技術者研究会

展示課 ○ 新田 誠


アカムツは,生息深度が深く良好な状態での採集が困難な魚種である.この度,育成個体による展示を目的に,刺し網漁で漁獲されたアカムツで人工授精を行い,仔魚育成を試みた.

親魚は,2010年,2011年の2回,性成熟期間に該当する9月下旬~10月上旬に採集した.2010年は船上で受精卵が得られなかったため,親魚を水温13℃で輸送後,ホルモン剤(HCG:ゴナトロピン)を,雄:50IU/尾(全長197㎜,体重100g),雌:200IU/尾(全長300㎜,体重490g)筋注した.8時間後に採精し検鏡で精子活動を確認,同時刻に採卵した卵(卵径0.9㎜)が完熟卵と確認されたため,乾導法で受精した.海水(23℃)を満たすと,卵が浮上卵と沈降卵に分離し,浮上卵で受精膜を確認した.2011年は,受精は船上で乾導法を実施し,浮上卵を水温23℃で酸素パック輸送した.浮上卵を別容器に移し,少量の海水(23℃)を注水して保管した結果,受精25時間後にふ化を開始した.ふ化直前に沈降卵が増加し,ふ化数は,2010年が21尾,2011年が165尾であった.ふ化1日後の仔魚(全長1.92㎜)は膜鰭を呈し,眼の黒化は見られず,口と肛門は未開口であった.黄色素胞が,眼後方~第7筋節腹面,第12~16筋節背面に見られた.4日後(全長2.97㎜)に肛門の形成と開口を確認し,2010年はL型ワムシ(約250μm)を栄養強化して給餌したが,5日齢に大量死し,生存期間は最長で10日齢であった.6日齢の口径を測定すると200μmであった.生存個体は,ふ化した仔ワムシ(約140μm)を摂餌したと推測され,S型の方がより適していると思われた.2011年は,栄養強化したS型ワムシ(約160μm)を給餌した.初期減耗により,7日後に1個体(全長2.72mm,口径192μm)となったが,解剖でワムシの摂餌を確認した.餌料サイズは判明したが,卵管理改善によるふ化率向上と初期減耗を減少させる飼育条件の解明が今後の課題である.


カマイルカの精液中精子数の年変動

2011年 第37回海獣技術者研究会

展示課 加藤治彦,○鶴巻博之,田原正義,村井扶美佳,加藤 結
山際紀子,長谷川泉,榊原陽子,南雲 綾


鯨目の繁殖生理研究の一環としてカマイルカ Lagenorhynchus obliquidens(2001年1月29日野生捕獲,雄,体長220cm,体重120㎏)の精液中精子数を計測したところ年周期性が見られたので報告する.

2010年1月から2011年8月の20か月に渡り,1から4日に1回の頻度で採精し,合計451検体の精液を採取した.採精は上陸横臥姿勢(=サイドランディング(平野他,1999))と生殖溝への接触刺激での陰茎露出,それに後続する射精を条件付け,噴出された精液を採取した.採取された精液の一部をスライドガラスに分取し,光学顕微鏡を用いて1視野400倍(HPF),10視野の精子数を数え,平均数を精液中精子数とした.

精液中精子数の変動範囲は2010年が0-27280(平均368,標準偏差2105,標本数264),2011年が0-22624(平均681,標準偏差2807,標本数187)であった.精子は周年出現し,2010年では6月中旬から10月上旬に,2011年では6月中旬から8月下旬に1000<の高濃度となった.

一方,同時期に測定した(2010年1月27日-2011年8月24日,N=31)血液中テストステロン値の変動は2003年,2004年より得られた報告(新田他,2005)と同様,春から秋に増加する季節性を示した.対象個体においては,5月頃に生起する急激な血中テストステロンの上昇に35-51日遅れて精液中精子が高濃度となる.また,高濃度の期間は血中テストステロンの減少後21-47日間継続するという明らかな年周期性が見られた.精液中精子の高濃度出現が血中テストステロンの上昇後1-2か月遅れて見られ,血中テストステロンの減少後1-2か月継続するという動態は,尿沈渣精子の高濃度の出現(新田他,2005)と同様であった.

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トノサマガエル白化個体の上皮小体機能亢進症の発症と治療

2011年 関東・東北ブロック水族館飼育技術者研究会

展示課 岩尾 一


トノサマガエル白化個体での上小体機能亢進症(Hyperparathyroidism:HPT)発症例の経過を報告する. 上皮小体は体内のカルシウム濃度を制御しているが, 上皮小体の機能が亢進すると, 骨の脱灰が生じ, 骨の脆弱化(代謝性骨疾患), 低カルシウム血症等を生じる. 動物では, カルシウムやビタミンDの摂取不足による栄養性 のHPTが一般的である. 2010年7月9日, 新潟県阿賀野市で発見されたトノサマガエル白化型の幼生11個体が市民より譲渡された.

幼生は, 熱帯魚用飼料用(テトラミン(R))と赤虫で育成し, 同年9月までに8個体が変態・上陸した. 変態後の幼体には, 適当なサイズのイエコオロギに炭酸カルシウムをまぶして給餌した. 同年11月ごろより, 成長遅延, 鼓腸症, 動作緩慢, 食欲不振といった症状が4個体の上陸幼体でみられるようになった. 細菌感染症を疑い, 抗生剤投与(エンロフロキサシン 5mg/L 10分間浸漬 5日間)を行ったものの症状の改善は認められなかった.

その後, 重症例では後肢の痙攣も頻発するようになり, 同年12月中に2個体が死亡した. 死亡個体の剖検では重度の皮下水腫を認めたものの, 感染症を疑う所見は無かった. 各種症状から, HPTを疑い, 診断的治療として, 2011年1月11日よりビタミンD(オスビタン1000(R) 2-3IU/Ml)を添加したグルコン酸カルシウム水溶液中(カルチコール末(R) 2g/L)での飼育に切り替えたところ, 症状が次第に改善したことから, HPTと診断した. 発症から9ヶ月経つ現在, 4匹が生存しているものの, 未だ完治せず, グルコン酸カルシウム水溶液中での飼育を継続している.

また, ほとんどの個体で自発採餌が困難であるため, 強制給餌も継続している. HPTの発症理由としては, 栄養性の原因が最も疑われる. しかし, 今回の発症個体はすべて色彩変異個体であり, 同クラッチ由来と考えられることから, 遺伝的要因の関与も否定できないと考えている.

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鯨類における腎機能マーカーとしての尿中N-アセチルβ-D-グルコサミニダーゼの有用性

2011年 第17回日本野生動物医学会

展示課 岩尾 一, 加藤 結, 榊原陽子, 鶴巻博之1, 田原正義, 南雲 綾, 長谷川 泉, 村井扶美佳, 山際紀子


尿中N-アセチルΒ-D-グルコサミニダーゼ(UNAG)活性の上昇は尿細管上皮の傷害を反映し、腎臓の機能異常の早期マーカーとして用いられている。UNAGが鯨類の腎機能マーカーとしても有用か検討するために、腎機能が正常な鯨類(ハンドウイルカ Tursiops truncatus(Tt)雌3頭、カマイルカ Lagenorhynchus obliquidens(Lo)雄1頭)、および、ネフローゼ症候群による慢性腎不全を発症したTt雌1頭より採取した尿のUNAG活性を測定した。UNAG活性を尿中クレアチニンで補正した指数(U/G)で表すと、Tt雌の正常尿で3.1±2.4(平均値±SD)(N=12)であった。Lo雄のUNAGは、尿中精子の出現と一致した上昇が見られ、雄性生殖器由来NAGの混入が疑われた。腎不全のTtのUNAGは、ネフローゼ症候群の発症前9.9だったが、発症後、最大50.2まで上昇し、ステロイド投与により13.6 まで低下し、末期腎不全での死亡時には236.9に再上昇した。UNAG測定は鯨類の腎機能評価に有用と考えられたが、雄個体の結果は慎重に解釈すべきと思われた。

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水族館と環境コミュニケーション

2011年 東京大学大気海洋研究所共同利用研究集会 生物多様性と水族館 研究・展示・啓発活動

管理課 大和 淳


環境コミュニケーションという言葉は比較的新しい言葉である。平成13年版(2001年)の環境白書では、「持続可能な社会の構築に向けて、個人、行政、企業、民間非営利団体といった各主体間のパートナーシップを確立するために、環境負荷や環境保全活動等に関する情報を一方的に提供するだけでなく、利害関係者の意見を聴き、討議することにより、互いの理解と納得を深めていくこと」と定義している。また、1999年にOECDがまとめた「Environmental Communication」では、「環境面からの持続可能性に向けた、政策立案や市民参加、事業実施を効果的に推進するために、計画的かつ戦略的に用いられるコミュニケーションの手法あるいはメディアの活用」と定義している。2006年には国際標準化機構が環境コミュニケーションに関する国際規格化(ISO14063)を発行したこともあり、特に大企業などでは、ステークホルダーとのコミュニケーション活動の1つとして環境コミュニケーションという用語はかなり浸透してきた。水族館も組織である以上、多様なステークホルダーが存在する。来館者はもちろんのこと、設置者や出資者(納税者や株主など)、出入りの業者なども当然ステークホルダーである。よって、現在定義されている「環境コミュニケーション」もそのまま当てはめることができる。

しかし、特に日本では環境コミュニケーションを「企業が行う、ステークホルダーとの環境に関するコミュニケーション活動(CSRの一環)」と矮小化されて理解されているため、市民への広がりが無いことが残念である。「環境」も「コミュニケーション」も非常に深い言葉であるからこそ、現状の「環境コミュニケーション」では、何かもの足りないと考えている。具体的には「環境コミュニケーション」は、これからの「環境教育」の1つの方向性を示しているようにさえ感じている。

本発表では、まず、「企業」という小さな枠に取り込まれてしまった「環境コミュニケーション」を、もっと自由に解釈することを試みる。そして、水族館での活動の中に新たな「環境コミュニケーション」の概念を取り込み、その活動の意味や意義を問い直してみたい。

方法として、当シンポジウムのタイトルにある「生物多様性」「啓発活動」をメインキーワードに、「環境」「自然」「ヒト」「生物」「コミュニケーション」「環境教育」「インタープリテーション」「ESD(持続可能な開発のための教育)」「CEPA(広報・教育・普及啓発)」などのキーワードを検討することで「環境コミュニケーション」について考えたい。そして、その検討を踏まえ、水族館での環境コミュニケーションとはどのようなものか、また実際に行っている水族館での活動(環境コミュニケーションと意識しているかどうかは別として)について考える事とする。


カマイルカの連続射精における精液性状の変化について

展示課 加藤結




カマイルカLagenorhynchus obliquidensの連続射精時の精液量, 精子濃度, 精子活性の変化を調査した.
供試個体は1頭の雄のカマイルカ(国内登録番号285, 2001年1月29日野生捕獲, 推定年齢 16歳, 体長 220cm ). 2014年6月20日から2014年8月14日まで, 2日から5日おきに1日あたり連続3回を1セッションとし, 計19セッション採取を試みた. 精液採取は, 横臥姿勢での上陸後に, 生殖溝への接触刺激での陰茎露出, それに後続する射精を条件付けて, 20-30秒おきに実施した. 連続採取の時間間隔は, 当該間隔で精液を採取できていた過去の経験に基づいて決定した. 採取した精液は検査まで37℃の湯で保温した. 精子濃度は血球計算盤で算定した. 精子活性は, 牛の精液評価法に準じ, 精液をスライドガラスに貼ったパッチ状シール内に滴下し, 生存率と運動力(運動激烈から運動しないまでの5段階)を記録し, 運動力により重み付けした数値と生存率を掛け合わせて100で割り, 精子生存指数として評価した.
19回のセッション中, 3回とも射精があったのは11セッションであった. 精液量の中央値は1, 2, 3回目, それぞれ, 8.5ml, 1.0ml, 1.0ml. 精子濃度は6.0×10⁸/ml, 0.02×10⁸/ml, 0.004×10⁸/ml. 精子生存指数の平均値は47.3±32.4(標準偏差), 43.3±23.2, 27.8±20.7であった. 精液性状は1回目が良く, 回を重ねるにつれ, 悪化する傾向にあった.
バンドウイルカでは15-20分間内に連続して9-10回射精が可能で, 1回目では量が多いが精子濃度は低く, 逆に2回目以降では, 量は少なくなるが, 精子濃度はピークに達することが報告されている. 今回の結果と差が生じた理由として, 射精間隔の違いが考えられる.

発表資料:2014年第40回海獣技術者研究会・カマイルカの連続射精における精液性状の変化について(1.29MB)pdf[1]


新潟市近郊の陸水環境を模した「にいがたフィールド」とその活用について

2018年 第63回水族館技術者研究会

展示課 平山結,田村広野 管理課 石川訓子, 大和淳


 1990年に誕生した新潟市水族館マリンピア日本海は, 老朽化及び耐震対策, バリアフリー化, 新たな魅力の付加を目的に, 2013年にリニューアル工事を実施し, 屋外に「にいがたフィールド」を設置した. その概要と活用を紹介する. 「にいがたフィールド」はある種のビオトープで, 築山・里域の水辺環境・芝生広場から構成される敷地面積3400㎡のゾーンである. 里域の水辺環境として, 地面を掘削して遮水シートを埋設し, 小川・ため池・たんぼ・わき水・砂丘湖の5つの環境を模した. 総水量は100㎥で最大水深は90㎝である. 各水域は小川でつながり, 水道水を中和した飼育水と井戸水を供給し, ポンプ循環を施している. 水温は, 井戸水の供給点である湧水では年間を通して14℃前後と一定であり, その他の場所では気温の影響を受け変動している. 「にいがたフィールド」は新潟市近郊の陸水環境を模し,  水生植物ではアサザやトチカガミなど, 魚類ではシナイモツゴやホトケドジョウ, トミヨ属淡水型など, レッドリスト選定種を含めた在来種を半自然的な環境で成育させている. これらの種の一部は自然に繁殖, 定着し, 生息域外保全にも資されている. また, 学習機会を提供するため, 3月から11月までの月1回, 各エリアを職員が解説しながら案内するガイドツアーを実施している. ツアーは10名につき1名のスタッフが対応し, 多くの質問を受けるなど参加者の反応はよい. ユニークな体験として, 同一の20名を対象に6月から11月までの期間に, 田植え・稲刈り・脱穀・わら細工の一連の流れを体験してもらい, 「米どころ」新潟の水域文化の一部である農業や伝統について伝えている. 普段できない体験ができてよかったなどの感想が多く, 参加者の満足度は高い. 「にいがたフィールド」には導入生物以外の昆虫や鳥類なども来訪し, 一部は定着するなど多様化も増している. 今後も, 健全な展示環境を維持し, 希少生物の保全及び教育普及を推進していきたい.


アカムツの人工採卵と育成

2014年 第59回水族館技術者研究会

新田誠(新潟市水族館マリンピア日本海)
八木佑太((独)水産総合研究センター日本海区水産研究所)
飯田直樹(富山県農林水産総合技術センター水産研究所)



新潟市水族館では,2010年からアカムツの生体展示を目的として人工授精による仔魚育成を実施してきた.2013年からは,展示のほか,資源管理への応用も含めた共同研究として3機関で育成技術開発に取り組み,稚魚期までの育成に成功した.
親魚は,2013年9月中旬に新潟県の寺泊沖で採取した.船上で人工採卵を行い,乾導法で受精した.受精卵は,30Lパンライトで水温20.7±0.4℃,通気2.5L/分で管理した.仔魚は,500Lパンライト2槽で,水温22.4±0.9,22.6±0.6℃で飼育した.餌は,3~24日齢までS型ワムシ,以降はアルテミアを併用し,共に栄養強化(SCP:クロレラ工業㈱)して使用した.飼育水には,冷凍ナンノ(K-2:クロレラ工業㈱)を15g入れた.照明は,蛍光灯(40W)で24時間点灯した.
1回の採卵量は,4.5万~16万粒(n=5)で,受精率は50~75%であった.卵は,0.82±0.01㎜(n=10)の球形の分離浮性卵で,約40時間でふ化した.ふ化率は,11.3~34.5%であった.仔魚は,ふ化直後で全長1.82±0.08㎜(n=4),3日齢(2.87±0.08㎜,n=5)で開口した.16日齢(3.96±0.19㎜,n=4)で各鰭の原基が形成され,30日齢(7.46㎜,n=1)で前期稚魚期となった.稚魚は223尾で生残率は0.3%であった.1歳齢の生残は178尾で,稚魚期から若魚期までの生残率は79.8%であった.1歳齢の全長は120.5㎜(n=1)で,新潟の天然海域での全長82~98㎜(大西2009)を上回った.卵は,ふ化直前に沈下して死亡するため,常に浮遊させる通気量がふ化率の向上に有効であった.仔魚の育成水温は,過去の育成記録,天然海域での仔魚の鉛直分布,産卵期の水温の鉛直測定結果から22℃以上が適していると考えられた.仔魚は,7日齢以降から浮上死する個体が増加するため,常に1L/分の強めの通気で育成すると効果的であった.


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